「鳳凰美田」ワイン酵母使いのトップランナー
今回は、1872年創業、栃木県小山市の小林酒造が醸す「鳳凰美田」です。当時、美田(みた)村という良質な米の産地にあったことから「鳳凰美田」と名付けられました。番外編として「美田鶴」という銘柄もありましたが、ここのところ見かけなくなっています。現在の5代目蔵元・小林正樹氏は日本の蔵元に多い東京農大出身。醸造試験場での2年間を経て、90年に小林酒造に入社しています。
蔵元のこだわり
「鳳凰美田」の純米吟醸といえば、マスカット香で有名ですが、瓶裏面の商品紹介ラベルにはこういうことが書かれています。
“お召し上がりになる際は、グラスに注ぎゆっくりと空気に触れさせ常温に近い状態にまで温まりますと、味わいの膨らみ、お米の優しさ、純米吟醸酒だけにしか纏えない香り、甘味、そして雅な質感などもお伝えできるかと存じます”
冷たくして、はたまた常温で、香り、甘味など、純米吟醸ならではの贅沢さをとことん味わってもらいたいという蔵元のこだわりを感じさせる一文です。
高い商品はもちろん満足度120%ですが、リーズナブルな吟醸酒もあって本当にお得な酒蔵です。
写真は「本吟」、一升で税込2,376円。一升瓶で3000円を超える銘柄が普通になっている今、貴重な2000円台前半銘柄です。
そして栃木県の酒米「とちぎ酒14」を使った「純米吟醸 No.14」。各地で地元産の酒米の開発が進んでいますね。地産地消、各地の特徴を生かした酒造りを進めていただきたいものです。もちろん山田錦や愛山、「亀の尾」を改良した亀粋など、数多くの酒米を生かした「鳳凰美田」も好物ですけど。
ワイン酵母使用の先駆者
たしか2010年、ワイン酵母を使った「鳳凰美田 ワインセル」を醸造開始、当時は試験醸造だったためシンプルな文字だけのラベルでしたが、2012年から現在のワインのようなラベルになりました。2016年には「鳳凰美田 純米吟醸ワインセル スパークリング」も登場、ワイン酵母使いのトップランナーとして業界をリードしています。
私的には、このワインセルは毎年味わっています。兵庫県西脇地区産の山田錦を使い、ワイン酵母の特性で、毎年微妙に異なる味になっていますが共通しているのは、日本酒とはいいながら、ワインっぽいマスカットの香りが鼻腔をくすぐります。甘味も口の中がべたつかないキレのよいものになっていて、食中酒というよりは食前食後酒にピッタリだと思います。
左・ワインセルスパークリング 右・ワインセル
日本酒を醸造する過程で発生する炭酸ガスを活かして瓶詰めしたもので有名なのは「獺祭スパークリング」があります。こちらは通年で手に入る(といってもなかなか買えませんが……)もので、同じ品質で商品化するのが大変難しいと言われています。そこはさすがコンピュータ管理が進んでいる「獺祭」です。
一方、今回の「鳳凰美田」は、ワイン酵母を使って醸した純米吟醸酒を瓶詰しており、通年商品ということではありません。小林酒造は経営危機に陥っていた時期もありましたが、小林蔵元が純米吟醸、純米大吟醸をベースとした日本酒の多品種少量生産に切り替えて現在の大人気蔵元に立て直した経緯があり、季節商品が多数発売される蔵元となっています。今回のスパークリングもそのひとつですし、「いちご」や「もも」、「ゆず」などの日本酒ベースのリキュールも季節ごとに発売しています。こちらのリキュールも大変おいしいので、ぜひお試しください。その果汁っぽさにきっとビックリしますよ。
「獺祭」と「鳳凰美田」のスパークリングの味わいを比べると、前者はいわゆる辛口っぽい後味スッキリ、後者は甘みのある後味スッキリと言った感じでしょうか。やはりワイン酵母が独特の甘みを演出しているような気がします。シャンパンのような瓶の「獺祭」に、美しいグリーンの瓶に澱が沈み、グラデーションのようになっている「鳳凰美田」。ほんとうに贅沢な飲み比べです。
左・獺祭スパークリング 右・鳳凰美田スパークリング
栃木県にはたくさんの酒蔵がありますが、そのなかでも「鳳凰美田」は栃木県の酒をリードする蔵としてどんどん進化していただきたいですね。