「篠峯」神話の里でその土地にこだわり醸す酒

今回は奈良県御所(ごせ)市大字櫛羅(くじら)で1873(明治6)年創業の千代酒造です。御所市は奈良県のちょうど真ん中で、大阪府、和歌山県の県境に近いところにあります。千代酒造は御所市でも北にある葛城山の麓近くの櫛羅にあり、その伏流水を自家にある井戸から汲み、何の処理もしない状態で、仕込水だけでなくすべての酒造用水で使用しています。

御所市は明日香の時代より更に古い時代に豪族が開いた土地と言われ、天孫降臨伝説がある高天(たかま)に代表される神話の里です。中でも葛城山は役行者(えんのぎょうじゃ)が修業したといわれています。

千代酒造では地名からとった「櫛羅」と「篠峯」を醸しており、1994年より蔵の周囲にある自家田で山田錦も栽培しています。とくに「櫛羅」は、この地の風土を映しこんだお酒を造りたいということで、自家栽培の山田錦だけで造っています。

こちらで醸される酒はかなり少量ですが、それだけに奈良の米、奈良の水、蔵付き酵母を使い、ていねいに造られています。平成16年から平成24年まで9年連続で日本酒鑑評会金賞を受賞していましたが、平成26年からは出品を取りやめています。鑑評会で金賞を取るよりも大切なものがあるということなのですね。

そんな千代酒造が1999年から限定流通酒として醸している「篠峯」の名称は葛城山の別称から採ったもので、自家栽培の「山田錦」だけではなく、契約栽培農家からの「山田錦」や「雄町」といった品種の米も使用しています。

こちらは「篠峯 愛山 純米中取り 無濾過生原酒」兵庫県産愛山100%使用で66%精米。無濾過なのですが、写真のグラスでもおわかりのとおり、きれいなお酒です。味も見たとおりの澄んだ甘味、旨味が見事です。

「櫛羅」「篠峯」ともに、なかなか目にすることがありませんが、日本酒発祥の地で、その土地にこだわりをもって醸している心意気を味わいたいですね。

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