「而今」今をただ精一杯に生きる酒蔵
前回は「獺祭」をプレミア価格で買わずに正価でたくさん買いましょうという提案でしたが、今回は同じくプレミア価格がついている「而今」です。
「而今」を醸す木屋正酒造は三重県名張市で1818年創業の歴史ある蔵です。今年はちょうど200年になりますね。あまり表立って200年と言っているわけではないようですが、築200年の蔵がまだ使用されているのは驚きです。
だからといって、昔ながらの製法にこだわっているわけではなく新しい試みも行っています。もともと「高砂」と「鷹一正宗」(また正宗ですね)を醸し、伊賀地方を中心に飲まれていましたが、6代目蔵元の大西唯克さんが就任して2005年から「而今」を始めました。
大西さんについて有名なところでは、上智大学理工学部卒業後、雪印乳業を経て、広島県の酒類総合研究所で酒造りを学び、蔵を継いだということです。やはり、東京で売れる味がわかっているかわかっていないかは、その後の製品づくりに大きくかかわってきます。それまでのブランドに代わって「而今」を始めたときはかなりの挑戦だったと思いますが、その道が間違っていなかったことは、全国で引き合いが多く、幻の日本酒となってしまっている現状が証明しています。
酒米も「愛山」「酒未来」「雄町」「八反錦」など、多種多様なものを使ってきました。しかし、大西杜氏は2016年に伊勢志摩サミットの日本酒に選ばれたときに、朝日新聞デジタルのインタビューを受けています。そこには「ゆくゆくは自らコメ作りにも挑戦し、名張の田園風景を残していきたい」という言葉がありました。その後実際に、地元の農家と協力して伊賀産山田錦、名張産山田錦を栽培し、それがすばらしい純米大吟醸として発表され、とくに名張産山田錦はANAのファーストクラスで供される日本酒にも選ばれています。
また、昨年10月には三重県産山田錦を45%精米した「高砂 松喰鶴 純米大吟醸」を発売しました。英語表記もありますので、輸出もされたかもしれません。着実に理想を具現化していっていますね。
人によっては「而今」はどのコメを使っても「而今」と言う人もいます。悪口ではないと思いますが、そのくらい品質が安定しているということではないでしょうか。私個人としては「日本で一番綺麗な酒」だと思っています。味わいは、コメが変わっても筋の通った幹の延長上にある感じがします。それが「而今」が目指す「フレッシュ&ジューシー」であることはまちがいありません。もちろん正価で購入出来たらいつでも飲んでいたい一本です。私の行きつけの酒店でも抽選販売になってしまい、なかなか買えないんですよね。まあ、私のポリシーは酒屋にある酒を正価で購入し、一期一会を愉しむということなので、いつかまた巡り合えることと期待しています。