5つの蔵が紡ぐ福島県の絆
「飛露喜」、「冩楽」、「ロ万」、「廣戸川」、「一歩己」ときたら、このブログを読んでくださっている方ならピンとくると思います。そう、福島県のお酒です。
たとえば秋田県内の5つの酒蔵が協力したNEXT5(こんど書きたいと思います)は、本来であれば、なかなか醸造の秘密を教えないライバル同士が協力し合って日本酒を盛り上げようという試みです。
それと同じように、福島県では「飛露喜」を醸す廣木酒造をおとうさん(失礼かも)とすると、「冩楽」の宮泉銘醸、「ロ万」の花泉酒造を長兄、「廣戸川」、「一歩己」が末っ子的なイメージで情報交換をしているそうです。 先日もテレビで米の仕込み方の勉強会の様子が放送されていました。NEXT5にも通ずることですが、秋田、福島ともに杜氏というか蔵元が若いです。また、ビジネスマンを経験されてから蔵を継いでいる方が多いので、危機感を共有できるのでしょう。
そして、都会で飲まれる味がわかっているのも強みです。そこを共有すれば米どころでもありますし鬼に金棒となるはずですよね。
廣木酒造は江戸時代中期の創業。地元酒「泉川」を醸す蔵として営業していたところに現蔵元兼杜氏の廣木健司氏(52歳)が平成11年に「飛露喜」の醸造を開始。「喜びの露が飛ぶ」の名のごとく、あっという間に人気酒となり、今ではプレミアがついてしまっているほど。定価はとてもリーズナブルなので、品薄になるのは仕方ないところですが・・・・・・。
「冩楽」の宮泉銘醸は昭和30年創業。「会津宮泉」を醸しながら、4代目社長宮森義弘氏(42歳)になって平成19年「冩楽」の醸造を開始。今では手に入りにくい人気酒となっています。現在では米を2割まで磨き込む超高精白に挑戦するほど技術力にも磨きがかかっています。こちらもリーズナブルな価格で品薄になっています。
「ロ万」の花泉酒造は大正9年創業。地元酒「花泉」を醸し、平成19年に「ロ万」を発売。「ロ万」の使用米はすべて会津・南会津産で、 福島県で開発された酒造好適米「夢の香」や「五百万石」を使用しています。酵母も、福島県で開発された「うつくしま夢酵母」を使用するなど、徹底的に福島にこだわっています。「ロ万」だけにロマンティックですね。
「廣戸川」の松崎酒造は明治25年創業。ネーミングは、地元を流れる「釈迦堂川」がかつて「廣戸川」と呼ばれていたことによります。2011年の東日本大震災でそれまで酒造りをしていた南部杜氏が心労で倒れ、当時、福島県清酒アカデミーを卒業したてだった、松崎祐行氏(現6代目蔵元兼杜氏・35歳)が後を継ぎました。それから人気が全国区になったのですが、少数生産のためなかなか見たり飲んだりすることができません。
そして「一歩己」の豊国酒造。県南の石川町にあって、地元では「東豊国」という銘柄を醸しています。福島県には豊国酒造がなぜか2社あり、ひとつはこの「東豊国」、もうひとつは会津にあって、「豊国」という銘柄を醸しています。
福島県は浜通り、会津、中通りと奥羽山脈と阿武隈高地によって分けられているので、以前は他の地域に酒を卸すことがなかったことが原因だそうで、血縁もないそうです。その「東豊国」と「一歩己」を率いているのは9代目蔵元矢内賢征氏(33歳)。早稲田大学政経学部を卒業した後、豊国酒造に戻り、名人と謳われた簗田博明杜氏に師事。
「一歩己」は矢内氏が卒業後に蔵に戻った翌年から仕込みはじめ、「主張しすぎない酒」を目指しています。毎年その味わいが向上しているのは、福島県の絆が影響しているのかもしれません。
ラベルは春の息吹を感じさせるうぐいす色。 「一歩己グリーン」と名付けたいですね。 また、それぞれの裏ラベルには、若き杜氏の思いが記されています。この一文から、その銘柄にかけた想いをくみ取っていただきたいと思います。
「酒造りに終わりはない」
師から贈られたこの言葉を改めて己に言い聞かせ歩みます
若き蔵人
一時は廃業を考えたこともある廣木酒造だからこそ、日本酒業界のことを考え、また東日本大震災で被災した5蔵だからこそ、福島県の再興・発展を考えて協力体制を築いているのでしょう。私たちはその心意気にむくいたいですね。