「ひやおろし」猛暑を乗り越えて熟成された旨さ

9月に入って、各酒蔵が秋季限定商品の「ひやおろし」もしくは「秋あがり」といった名前が付いた日本酒を続々出荷してきます。

「ひやおろし」とは、冷蔵技術が発達していない江戸時代、冬にできた新酒が劣化しないよう春先に火入れ(加熱殺菌)した上で大桶に貯蔵し、ひと夏を超して外気と貯蔵庫の中の温度が同じくらいになった頃、2度目の加熱殺菌をしない「冷や」のまま、大桶から樽に「卸(おろ)して」出荷したということが語源となっています。それが大桶がタンクや瓶に代わった現代にも通じているということです。

涼しい場所に保管をしていても、外は真夏の暑さ。冬場よりは早く熟成が進み、秋になるころには最高の出来になっています。

ちなみに、現在では7月1日から翌年6月30日までとなっている酒造年度は、昭和39酒造年度まで、「101日から翌年9月末日」と定められており、蔵元では10月1日を「酒造元旦」として祝っていました。その経緯から、今では「日本酒の日」とされていて、そのなごりで山口県「長陽福娘」や「貴」のひやおろしなど、101日に販売を解禁するような日本酒もあります。

今回ご紹介するのは10月1日解禁ではない銘柄です。

まずは山形県、江戸時代「西の堺、東の酒田」とならび称されるほどの繁栄を誇った港町を代表する酒蔵、酒田酒造の「上喜元」特別純米 きもと造り 美郷錦 氷温貯蔵 ひやおろし。

本来は約半年ほどの低温(常温)熟成で蔵出しされることが多い「ひやおろし」ですが、酒米の美郷錦の味わいを引き出すため、氷点下温度で1年熟成、今年の春からは低温熟成で一年半貯蔵したものです。

美郷錦は秋田県農業試験場で、「山田錦」に「美山錦」を交配させたもので、大潟町でしか栽培されていない酒米です。さっぱりした甘みがどんな肴にも合います。

もう1本は福井県、安本酒造の「白岳仙」純米 ひやおろし。

創業嘉永六年(1853年)という老舗で、生産石数500石の少量生産。手造り・手作業による、妥協を許さない酒造りを行っています。

滋賀県の酒米「玉栄」を使用し、こちらはひと夏を越えてきた結果の甘みと旨みが混在する一本です。

そしてこれからの季節、ハイキングがてら足を伸ばしたい「澤乃井 ひやおろし」。御嶽渓流沿いの澤乃井園で飲むひやおろしは格別です。

さらに先日ご紹介した山田錦100%の「山形政宗 純米吟醸 秋あがり」は、ひいきの店に得意先を連れて飲ませてみましたが、感動していたほどの旨さです。

最後に、これは驚きました。ただいま絶賛発売中の「春霞 栗ラベル黄 山田錦」、”特別純米のひやおろし”です。ひと夏を超えているのガス感があり、舌先にピリピリとくるんです。「山形政宗」とともに、この秋一番のオススメです!

今しか飲めない「秋あがり」「ひやおろし」の夏を越した旨さを味わったあとは、これまた楽しみな「新酒」がもうすぐ登場します。

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